この記事でわかること
- ✅ カイル・シュワーバー選手のキャリアとプレースタイル
- ✅ 2025年シーズンの驚異的な二冠の成績とその歴史的価値
- ✅ 「史上最も不運な二冠王」と呼ばれるに至った背景の全て
- ✅ 大谷翔平選手との壮絶なMVPレースの詳細と投票結果
- ✅ この出来事が現代野球の評価基準に与えた影響
1. 56本塁打、132打点。史上最高の偉業が生まれた日
2025年シーズンのナショナル・リーグで、一人のスラッガーが歴史的な金字塔を打ち立てました。
フィラデルフィア・フィリーズに所属するカイル・シュワーバー選手です。
彼はシーズンを通して驚異的なペースで本塁打を量産し、ナショナル・リーグにおける本塁打王と打点王の二冠を達成しました。
最終的に残した成績は、56本塁打と132打点。
これは、現代野球においてMVP(最優秀選手)を当然のように獲得できる、偉大な数字です。
しかし、彼の偉業はほとんど話題になることなく、野球ファンの記憶からすぐに遠ざかってしまいました。
なぜ、これほどまでに圧倒的な二冠が「無価値」と評されてしまったのでしょうか。
2. カイル・シュワーバーとは?
カイル・シュワーバー選手(Kyle Schwarber)は、メジャーリーグを代表する超大型スラッガーです。
彼は圧倒的なパワーを持ち、打席でのアプローチも非常に優れていることが特徴です。
選球眼も鋭く、多くの四球を選ぶため、出塁能力も高い選手として知られています。
シュワーバー選手の基本情報
- 氏名:カイル・シュワーバー(Kyle Schwarber)
- ポジション:外野手、指名打者(DH)
- プレースタイル:圧倒的な長打力を誇るプルヒッター
- キャリア:カブス、ナショナルズなどを経てフィリーズで活躍
彼のキャリアの初期は、守備や怪我の問題もあり、出場機会が安定しない時期もありました。
しかし、打撃面では一貫して長打力を発揮し続けています。
特にフィリーズに移籍してからは、チームの核弾頭として打線の中心を担う存在となりました。
3. 「史上最も不運な二冠王」と呼ばれた理由
シュワーバー選手が「史上最も不運な二冠王」と呼ばれる理由は、彼が達成した偉業の裏側で起きた、あまりにも規格外なライバルの存在にあります。
そのライバルこそ、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手です。
ジャーナリストとしての経験から見ても、これほどまでに圧倒的な成績が霞むケースは、野球史を探しても他に例がありません。
3-1. 2025年シーズンの壮絶なMVPレース
2025年シーズンは、ナショナル・リーグのMVP投票において、カイル・シュワーバー対大谷翔平という、壮絶な構図が生まれました。
シュワーバー選手は、前述の通り56本塁打と132打点という文句なしの打撃タイトル二冠を達成しました。
一方、大谷選手は打者としてもシュワーバー選手に肉薄する成績を残していました。
そのうえで、投手としてもチームに大きく貢献していたのです。
2025年シーズンの主要な打撃成績比較(ナ・リーグ)
- ✅ カイル・シュワーバー:本塁打56本(1位)、打点132打点(1位)、OPS.928
- ✅ 大谷翔平:本塁打55本(2位)、打点102打点(圏外)、OPS1.014(1位)
- ✅ 打撃タイトルだけ見ればシュワーバー選手が優位だったことが明白
3-2. MVP投票における「満票敗北」の衝撃
全米野球記者協会(BBWAA)によるMVP投票の結果は、野球界に大きな衝撃を与えました。
最終的なナ・リーグMVPは、大谷翔平選手が満票(1位票30票すべて)で受賞しました。
そして、二冠王であるシュワーバー選手の投票結果は以下の通りでした。
カイル・シュワーバー選手のMVP投票結果
- ✅ 最終順位:ナショナル・リーグ2位
- ✅ 獲得した1位票:0票
- ✅ 二冠王でありながら満票MVPの圧倒的なライバルの前に屈した
56本塁打、132打点という偉大な二冠王が、1位票を一つも獲得できなかったのです。
この結果こそが、彼の偉業が「無価値になった日」として語り継がれる最大の要因となりました。
4. 大谷翔平の「規格外の価値」がMVPの基準を変えた
シュワーバー選手がこれほどまでに評価を下げられた背景には、大谷選手が実現した二刀流の勝利貢献度が、これまでの評価基準を完全に上書きしたことがあります。
4-1. WAR(勝利貢献度)の圧倒的な差
現代野球のMVP投票で最も重視される指標の一つが、WAR(Wins Above Replacement:代替可能選手以上の勝利貢献度)です。
これは、打撃だけでなく、守備や走塁、投球の貢献度もすべて含めた総合的な貢献度を示す指標です。
シュワーバー選手の打撃によるWARは4.7(推定)と非常に優秀でした。
しかし、大谷選手は打撃成績に加え、投手として復帰初年度にもかかわらず防御率2.87という素晴らしい成績を残しました。
その結果、大谷選手の投打合計WARは8.0を大きく超える値となりました。
この統計的な貢献度の圧倒的な差が、記者に「満票」という判断を下させた最大の理由です。
4-2. 打率や守備の「ハンデ」
シュワーバー選手の弱点とされた要素も、大谷選手の価値を際立たせる結果となりました。
シュワーバー選手の打率は.240と、MVPクラスとしては低水準でした。
また、彼は主に指名打者(DH)としての出場が多く、守備での貢献は限定的でした。
一方、大谷選手は打率(.282)でも上回り、さらには投手という、DHとは比べ物にならない決定的な役割をチームにもたらしました。
「DHの二冠王」よりも、「投打で貢献する二刀流」の方が、チームの勝利にとって価値が高いと、記者たちは判断したのです。
5. 歴史に残る「二冠王 vs. MVP」の比較検証
シュワーバー選手のケースがどれほど異例だったかを理解するため、過去の偉大な二冠王と比較してみましょう。
過去、本塁打王と打点王の二冠を達成した選手のほとんどが、その年のMVPを獲得しています。
5-1. 史上最強の二冠王でもMVPを逃した例
メジャーリーグの歴史で二冠王がMVPを逃した例は極めて稀です。
例えば、2012年のアメリカン・リーグでは、ミゲル・カブレラ選手が三冠王(打率・本塁打・打点)を達成し、MVPを受賞しました。
この時、マイク・トラウト選手が本塁打30本、49盗塁、WAR 10.5という驚異的な成績で2位に終わっています。
トラウト選手は「三冠王」というタイトルに阻まれましたが、それでも1位票を6票獲得しました。
しかし、シュワーバー選手は二冠王でありながら、1位票はゼロです。
これは、大谷選手が成し遂げた二刀流の偉業が、「三冠王」という伝統的なタイトルすら超越し、「野球界で最も価値のあるもの」として認識された瞬間と言えます。
シュワーバー選手と不運なMVP2位の比較
- ✅ シュワーバー (2025):二冠王(56HR, 132打点)で1位票0票
- ✅ トラウト (2012):WAR 10.5で1位票6票
- ✅ シュワーバー選手の偉業が、タイトルを理由とした敗北ではなく価値の差による敗北であったこと
5-2. 選手間投票での高い評価
一方で、シュワーバー選手は選手からの評価は非常に高かったことも付記すべきでしょう。
彼は選手会が選ぶナ・リーグの最優秀野手「アウトスタンディング・プレーヤー」を受賞しています。
これは、プロの視点から見て、彼の「56本塁打・132打点」の打撃破壊力が、リーグで最も恐ろしいものだと認められた証拠です。
記者のMVP投票が「総合的な価値」を評価したのに対し、選手たちは「純粋な打撃の脅威」を評価したと言えます。
6. この出来事が野球の評価基準に与えた影響
シュワーバー選手の「満票敗北」という異例の出来事は、MLBの評価基準に大きな影響を与えました。
6-1. 「二刀流」がタイトルを超越した価値観
これまでの野球は、特定のタイトル(本塁打、打点、防御率など)を獲得した選手が最も注目されてきました。
しかし、2025年のMVP投票は、「二冠王」という伝統的なタイトルホルダーの偉業が、大谷翔平選手の投打における総合的な貢献度の前に、全く歯が立たないことを示しました。
これは、タイトルそのものの価値が下がったわけではなく、「二刀流」という前例のない貢献が、全てのタイトルを凌駕する「新しい野球の価値観」として定着したことを意味します。
6-2. DHのMVP受賞への新たな壁
また、DHが主体の選手がMVPを獲得することの難しさも浮き彫りになりました。
シュワーバー選手のように圧倒的な打撃成績を残しても、守備や走塁での貢献が少ない場合、総合的なWARが伸びにくいという構造的な問題が再認識されました。
特に、大谷選手のように打撃成績もトップレベルで、かつ投手としても貢献するライバルが出現した場合、DH選手のMVP受賞は極めて困難になるでしょう。
カイル・シュワーバー選手は、今後もMLBの歴史を語る上で、「偉業を達成しながら、時代とライバルに恵まれなかった史上最高の不運な打者」として、その名が記憶され続けるでしょう。


コメント